おかしな人達

4 本当にあった話

 キャバレー・バンドなどで仕事をする時の楽しみの一つに、先輩達の話がありました。私とは親子ほど歳の違うプレーヤーの誰もが、一つや2つのとっておきの話を持っていましたから。よく笑いました。

 有名なビッグバンドに在籍された事のあるサックス奏者の話です。
 
 もう、今ではそのバンドはありませんが、そこのバンマスというのが豪傑というか、何というか、まあ聞いて下さい。そのバンドはテレビの仕事もする、一応名の通ったバンドでした。当時、放送は生が主流でした。私も経験がありますが、生放送での演奏は神経を使います。で、そのバンマス、ある番組の放送中にディレクターの「キュウ出し」を勘違いして、まったく関係ないところで棒を振り下ろしてしまいました。バンドはバンマスが振れば「おおっっと!」とか言いながらも音は出します。プロですから、当然です。臨機応変に対処するのは基本です。それがいけませんでした。
 
 ディレクターが血相を変えて吹っ飛んできて「何やってんですかぁ、台無しだよなあ」と、今にも泣き出しそうな顔で言ったそうです。何回もリハーサルをやった上でのことだから怒りもひとしおでしょう。でも、そのバンマスは涼しい顔をして、しかし毅然と言ったそうです。
 「何を言うんだ。確かに振ったのは私だが、音を出したのはこのメンバーです。私は悪くない。棒は振っても音出ない。」
 
 あっぱれです。この話をしてくれた人は、思い出してまた怒っていましたが、私は案外この話が好きです。人に罪を擦りつけるときはこの位でなきゃ、説得力というものが、、、。




 ちょっと怖い顔したドラマーが話してくれたのはこうでした。

「あのな、××の××て言う店でな、ドイツ人の夫婦のジャグラーのショーが入ったのよ。(ジャグラーというのは曲芸ですね。自転車に乗った男の人の上で、女の人が立ち上がって芸をしたりするやつね)
 そんでよ、そいつらの持ってきた譜面がやたら難しくてテエヘンだったのよ。みんな余裕なんてネエよ。必死よっ。
 
 そんでな、そのバンドの4番テナー吹いてたやつな、昔ちょっとグレてた奴でよぉ。始めたのもオセエからな、何時も必死よ。で、なっ。そん時の譜面はヤッコさんには相当きつい譜面だったからよ。みんなの足引っ張っちゃあマズイってんで、もう死に物狂いなっ。男気は人一倍ある奴だったからよ。」
「それで、それで?」
「それでな、まあ何とかショーは終わって、ドイツ人の2人はお辞儀してたんだけどよっ。いきなり男の方が、そのテナーの方指さしてよ何か言ってんだよ。

 ドイツ語だろ? 母ちゃん抱えて、振り回したりした後で息上がってんだろ?イッヒ、ダルフント!!ゲロプハッハッなんて、もう、叫んでんだよ」
「それは、、、」
「いいんだよ、感じだよ、そういう感じ。それでな、テナーの奴な、なんか解らねえからよ。怒られてると思ったんだよ。あんなに一生懸命にやったのになっ」
「うん、うん」

「そんで、顔真っ赤にして立ち上がってよ、「なにおーっ」ってよ、掴みかかろうとしたのよ。そしたらよ、袖からマネージャー達が飛んできて「違う、違う」って止めんのよなっ。ウヘヘヘ。
 どうも、ショーのオッサンが言ってたのはよ、「この人は私達のためにこんなに汗だくになって頑張ってくれていた。この人にも拍手を」だったらしいのよ。ウヘヘヘヘッ。
 マネージャーにそれ言われて、そいつなっ、顔怒ったままで照れてヤンの。ウェははははははっ、、、」


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