唐草模様

 11 風呂敷


 最近は聞かなくなったが、箱バンが賑やかな頃、楽器の盗難話をよく聞いた。
 ステージに置きっぱなしで帰らざるを得ない楽器もあり、店側も神経質に対応はしていたのだが、内部事情に詳しく悪知恵に長けた者の犯行は相次いだ。

 あるドラマーは店に出勤して驚いた。ステージのドラムがあるべき場所に何もなかった。「それがよ、大体なっ、俺のドラムがある場所がどんくらいの広さか?なんて考えたこともねえだろ? まず、その広さに驚いちゃってな。ステージの真ん中辺りがよ、掃いたみてエに綺麗でよ、腹立つよりも先に、余りの見事さに笑っちゃたからな。」

 買ってまだ間も無いギブソンのギターを盗まれたギタリストの場合。ケースを開けて青ざめた。中には何も入っていない。「え"ーーーっ、なっ、なっ、何?」大騒ぎで店の周りを走り回ることになった。近所に目撃者がいた。
「そう言えばネ、大きな風呂敷包みを抱えたやつが店から出るのを見たなぁ。妙にでかかったから目立ってたなぁ、うん」

 泥棒といえば、昔から唐草模様の大きな風呂敷包みと決まっていた。
 それにしてもギターを風呂敷に包むことはあるまいに、ケースごとだと楽器泥棒だとすぐバレルと慮っての事だったのだろう。かえって目立ってしまった。
 大きな風呂敷包みのギターを抱えてそう遠くへは行かないだろう、というのが大方の予想だった。皆で周辺の質屋を探した。盗まれた楽器は殆どの場合質屋に入れられていたからだ。この場合も例外ではなかった

 
 ギブソンのギターは、店からさほど離れていない質屋で見つかった。二十万のものが僅か二千円で入れられていたのがせめてもの救いだった。

 ある放送局では大掛かりな盗難があった。
 グランドピアノが盗まれた。何人かの男達が×××ピアノと書かれたお揃いのつなぎを着て現れた。
「ピアノの修理の依頼を受けて引き取りに来ました」
「あっ、ご苦労さんです」
 男達は白昼堂々と局内に入った。廊下を練り歩いてグランド・ピアノを押し運び、やはり×××ピアノと書かれたトラックに乗せて走り去った。今では考えられないことだが、ノンビリした時代だった。

linhos


 J 氏は新しい「ゴールド・プレート」のアルトサックスを買ってご機嫌だった。高い買い物だった。ラッカー仕上の物が3、4本は買える値段だった。
「くーっ、堪んないね、このまぶしさ、目が潰れるンじゃないかい。えっ、どうだい、気品があらあね。いいだろ?ぬふふはははははっ」
 楽屋で皆に自慢しているところに、通りかかった新入りのボーイが顔を覗かせた。「盛り上がっていますね、何かあったんですか? わっ、新品ですか?綺麗ですねえ」
「そうよ、ゴールド・プレートだよ、金、金なっ」
「ごおるどぷれえと、ですか?お高いんでしょうね?」
「そりゃあ、おめえ何たって金だからよ。このまま潰してよっ、丸めて売っても五百万は下らねえな。イヒャ、ヒッ、ヒッヒッヒヒヒ。」

 口は災いの元。楽屋の楽器庫にしまわれた筈のサックスは次の日消えていた。J 氏も青ざめることになった。店の中を走り回った。「どこだ、どこだ。」
 結果は最悪だった。質屋ならまだしも、アルトサックスは店の中の電気室の片隅に、潰され、丸められた状態で転がっていた。丸めて売っても五百万の筈だった。
 しかし、潰して丸めているうちに「なんか変だな?」と気付いたに違いない。

 メッキが剥げ、只の真鍮の塊と化したゴールド・プレートを残してボーイは姿をくらまし、J 氏は程なくしてプレーヤーを辞めた。






to 70th menu



.© Shigeo Fuchino 2002 - 2025