あわ

10 屋上のたらい


 泡といえばビール。
 ビールと言えば夏。
 で、夏はビアガーデンという事になります。

 一度だけビヤガーデンでの仕事をしました。
 それも1カ月。
 しかも5月、、。

 なぜ、5月か?
 経営者側の思惑は「他より先んじて一歩リードする。結果、7月、8月のシーズン最盛期、固定客の付いたウチが圧倒的な勝利を収めるであろうことは自明の理。何事も機先を制するが肝心。」

 そう甘くないのがこの世の常。その年の5月は雨が多く、風も強く冷たく、ロクなものではありませんでした。バンドはギターの入った4人、20代前半の駆け出しジャズメン達が集まって編成されました。特に、演奏する曲に注文もなく、何時でも「トラ」はOK。アルバイトとしては実にお気楽な仕事でありました。

 雨が降ると休み。日払で発生するギャラを受け取りに一応店に赴くだけ。後日受け取ることは一切まかりならぬと言う約束でした。
 強風の日、軽い材質のテーブルや椅子が倒れたり飛んだりで営業できなくなり、閉店。仕事らしい仕事をした日は数えるほどでありました。
 経営はそのビルの中に店を構える大きな中華飯店でしたが、一風変わっていたのはShowが入ることでした。それで、店の名前は「キャバガーデン」
 凄いネーミングです。どんなショーが入ったのか、詳しくは覚えていませんが、その頃のキャバレーと同じようなものでした。

 

 ある日、入ったショーはヌードショー、事もあろうにバスタブを使う「入浴ショー」でありました。


 ステージはバスタブを置くには狭く、結局、ステージ前の床に直接置かれることになりました。そして、運ばれてきたものは「バスタブ」と言うのには程遠い大きな金だらいのようなものでした。

 ビヤガーデンとは言え、早い話が外です。床は普通のコンクリート。ステージ前の広いスペースにぽつんと置かれた金だらい。なんとも哀しい風情がありました。

 ショーは始まりました。場所が場所ならば、例えば妖しい照明の薄暗いクラブの中であれば雰囲気もでたのでしょうが、貧相な照明でした。客の少なさが、一層侘しさを深めました。引きつった表情のショーガールを見ている私達は、まるで隣のオバサンの行水を覗き見しているような嫌な気分になってきました。

 風が吹きました。
 入浴ショーは「泡」が全てです。泡は風で吹き飛ばされました。慌ててかき混ぜても間に合いません。ショーは訳の分からないものになってしまいました。
 ポーズをとる余裕の無くなったお姉さんは隠すことに必死になり、私達は演奏しながら笑いをこらえるのに必死。店の人は為す術もなく呆然と立ち尽くしていました。
 なんという馬鹿げたショーをブッキングしたのでしょうか。

 しかし、若いバンドのメンバーの誰もが、内心「もっと吹けぇ」と思っていたのは言うまでもありません。

 

 

to 70th menu

.© Shigeo Fuchino 2002 - 2025