11 お届もの
郵便受けに投げ込まれるチラシは日々増え続け、少し留守にでもしようものなら、無理矢理押し込まれたチラシが受け口からはみ出し煩しいことこの上ない。
雨の日に入れられたものは底に貼り付いてしまってなかなか剥がせない。
圧倒的に多いのはピンクチラシ。近々法規制するらしいが、遅すぎる。分譲マンションのものはチラシと言うより、小雑誌に近いものもある。ほとんどの住人が目を通すことなく捨てる。
大家さんは郵便受けの近くに大きなポリバケツを用意してこれに対応したのだが、一週間もすれば巨大ポリバケツが満杯になる。以前はピザのデリバリーとお粗末な印刷のビデオカセット関係が多かったのだけど、最近は寿司、中華は言うに及ばず、たこ焼き、お好み焼きなんてものもある。ピザはたまに食べたくなるもののひとつだけど、デリバリー専門店の寿司とかは注文しようとは思わない。
ピザの宅配がこれほどまでに普及するとは思わなかった。値段だってそう安いものでもないのだが、ポストに投げ込まれるチラシを見ると新しい店が続々と登場しているようだ。どれもが成り立っているとしたら凄い。
狭い店内の何処でどう調理するのかは分からないが、基地となる店舗の前には妙な形の三輪バイクがゴロゴロ並ぶ。
チラシを投げ入れる人に遭遇することもあって、それはそれは気まずい瞬間になる。迷惑だと言ったところで止めるはずもなく、困って目は宙を泳ぎ、焦っているようでどこか居直り気味の彼等に「御苦労さん」もないし、少々ろれつの回らぬ時間を感じながらやり過ごす。
ピンク系チラシは独特な色合いで、一目でそれと分かる。最近、その類いのメールが頻繁に送り付けられるようになって鬱陶しく、ついにプロバイダーのスパムメール・ガードを利用することになった。送り付けられることはないものの、プロバイダー側には保管されていて、必要なメールが紛れ込んでいないかたまに点検するのだが、一週間も放っておけばとんでもない数になる。この世はそのことしかないのか、という話なのだが、案外そうだと思えない事もない。第一、夜の歓楽街はかなりの部分がそのことで占められている。
深夜、車のライトに照らされた女性は建物の前に座り込んで懸命にメールを打っていて、遠目にもかなり若く見えた。「こんな時間に何だろう」と思っていると男性が現れた。
「何だ、ここの住人か」と駐車場横を通り過ぎようとした時、青年に「あの」と声を掛けられた。そのマンションの住人だと勘違いしたらしい。出たり入ったり忙しそうに見える彼等はどう見ても不審者だったし、そのことを払拭するために声を掛けずにはいられなかったのかも知れない。
振り向くと、斜め向かいの部屋を指して言う。「ここの方はいらっしゃらないのでしょうか?」そんなこと聞かれても分かる訳ないのだけど、部屋の電気はついている。「さあ?でもいるんじゃないの?電気ついているし」
深夜2時近い訪問者は只事ではないから、続けて一応聞いてみた。「ここの人の知りあい?」すると青年は少し困った表情を浮かべて「いや、あの、、派遣で、、」と答えた。
全てを察した。
すると、その部屋に人影が見えた。「ほら、いるよ」と言うと、青年は「あ、どうも」とかつぶやいて軽い会釈をしながらその部屋に向かった。後で思ったのだ。
「そうか、宅配とかデリバリーとかは言わないんだ。へえー、派遣ネ、フーン」
ものは言い様、派遣という言葉はもっともらしく、元々それが罪かどうかって事もあるのだけど、少しは罪が軽くなるようにも聞える。
05.2/6