納得

 また寒い季節になった。

 恐ろしく暑かった夏が懐かしい。たかが、太陽の照射角度が何度か変化しただけでこの温度差は何だ、と思う。自然界に起っていることは誰が何を言おうと決まってしまっていることであり、異議の入る余地はない。
 人は「ああ、そうですか」と全てを受け入れ納得して生きていくことになっている。
 しかし、子供の頃、決まっていることは仕方がないにしても、もしかして人の感覚には個人差があるのではないかと疑ったことがあった。例えば人が黄色だと認識している色味には知覚的な個人差があって、微妙に違うのではないか、微妙な差を持つ人を並べていくと黄色と黄緑ぐらいの差があるのではないか等々。
 で、友達にその話をして確かめようとしたが、無理な話だということはすぐ分かり阿呆らしくなってやめた。
 色を言葉で説明することは不可能なのだ。友達は「血の色が赤だ」と言うけど、その赤がどうなのかはお互いに説明できず、そのうち宇宙の果てはどうなっているか的議論の空しさにすっかり疲れ果ててしまった。
 結局、その人と入れ替わりでもしない限り分かるわけはないと言うどうでもいい結論に達したのだった。子供心にも、人の知覚、感覚は甚だ個人的なものである事を思わざるを得なかった。

linhos


 上前淳一郎さんの本、「読むクスリ」は週刊誌連載のコラムをまとめたもので、文庫でも30巻以上はある筈。

 ま、ちょっとした物知り話ばかりで退屈しない。料理に胡麻を入れると何となく味が良くなる。で、曖昧な味の料理に胡麻を投入して味を整えることから「誤魔化す」の語源となったという風に。
 この「読むクスリ」の何巻目かは失念したが、色の話が出て来て子供の頃の話を思い出した。

 詳しいことは覚えていないが、太陽の光の照射角度によって、人が知覚する色味は微妙に変わると言うものだった。個人差ではなく、要するに地域差といえばいいだろうか?
 鹿児島と札幌では違うらしい。寒暖は正しく色にも反映され、大雑把に言えば西日本では赤が映え、東日本では青味の方が馴染むという話だ。試したことはないが、ライターの炎は鹿児島ではより赤味が強く見え、札幌では青の部分が多くなるそうだ。

 カープスは広島で赤ヘル軍団。これは地域的に受け入れらやすい赤だが、これを関東でやると違和感があるらしい。事実、ビルの色などで不評だった事例もあるらしく、博多の町で中々いけていた赤い服が、東京の町では濁って見えるかも知れない。




 昔々、東京駅に降り立って、山手線の緑、中央線の赤、京浜東北線の青、それぞれの車両の色が何と汚れて見えたことか。いや、それは単に空気が汚れていただけ。  博多の空港で感じる、何となく晴れやかな空気。千歳空港で何となく思う空気感は色味が大きく作用していたのかと、今になって思う。しかし、夜の部屋の中ではどうなのかという事は分からない。
 様々な条件下での知覚の差異は他にもあるのかも知れない。それは個々の成長、老い、などによって変わるかも知れないし、地域、気候、時代に影響される可能性だってある。

 和音の変遷には、作曲家の新しいことをやり遂げたいという功名心を伴う改革もあったのだが、聴衆にも遅ればせながら変化は起こり、リズムに対する順応は時代に大きく影響されてきた。谷川俊太郎さんは武満徹さんとの対談で面白いことを言われた。
 「その昔、バロック音楽なんてのはネ、国って言うより一つの領区、極々狭い地域での出来事だったわけだよ。モーツァルトでもまだまだだよネ。でもサ、ブラームスになるとちょっと違う。山の向こうに違う国が存在してるって言う認識があるんだよね。でネ、現代は地球規模になって、君のはもう宇宙に飛び出していく感覚だよね。」

 人が知覚していることは絶対ではなく、結局は自然に操られている不確かで相対的なものだと言える。子供の頃の一日は今の2倍以上はあった筈だ。
 誰に聞いてもそう言う。「子供の頃は一日が短くてサ」などと言う人に会ったことはない。時間は、大人になって生きるスピードが低下した結果、早く感じてしまうとも思える。
 時を経て色々なことが変わった。昔はいけないとされていた事が、その後の研究で良い事になったとか、様々な学説も変化した。

 確かなことは何一つない。地球は回っていなくて、他の全てがあたかも地球が回っているかの如き巧妙な動きをしていただけで、実は宇宙規模の陰謀だったのです、なんて事があるやも知れぬ。
 太陽の黒点の変化が原因で色の数が減少し、カラー・コーディネーターは慌て、虹は4色が精一杯になるかも知れない。

 サックス吹きは何時ものようにいい加減にこう思う。
「結局、なんだナ、つまり今日明日は何とか確かだって事だから、そこら辺で納得して生きていくのが望ましいナ」

-

04 10/29


Column Top


.© Shigeo Fuchino 2002 - 2025