(この項の前半は、以前のColumnに掲載した記事で、いくぶん修正した)
私等の世代で「HY」の名前を知っている方は稀だと思うが、そもそも受け取る情報のほとんどがテレビに委ねられている現状では仕方のない事。しかし、若者を中心に圧倒的な人気を誇り、アルバムを出せばミリオンヒットでチャート初登場一位のバンド。しかも全員22歳。
若い世代が作り上げている新しい波を実感する貴重な2週間だった。沖縄のバンド「HY」の名を初めて聞いたのは、「12月の12、19のステージをやりませんか」との友人からの電話。そのサックス奏者が、彼等のレコーディングにある曲で参加したらしく、その曲をライブでやりたいのだが、年配のサックス奏者を紹介して欲しいとのオーダーがあったとの事。
その楽曲はサックスとのデュオとストリング・クァルテットの2タイプでレコーディングされ、使われたのはストリングの方。しかし、今回のライブではサックスバージョンでとの話。
最初はその友人も含めた、いわゆるホーンセクションでやるものだと思って話していると、どうも様子が違う。「えっ、それって一人?」「そうなんですヨ、それで年配のサックス奏者がいいっていう話なんですヨ。じゃあ渕野さんだという事なんですよ」「えーっ、それはありがたいような、うん、ま、いい心がけと言うか複雑な心境と言うか」ってなやり取りの後、ハテナマークが飛び交う中「あ、うん、分った」で、決まり。ま、国内の歌謡ポップス界の知識は年々疎くなっていて、知らなくても当たり前と言うのもあるのだけど、歌を聴いた事はなくてもテレビなどで名前を見かける事もあるから、全然聞いた事もない名前で、「それで、どこでやるの?」に、「武道館と大坂城ホール」と返って来たので相当驚いたわけだ。
開場前の武道館。縦に広い客席は人で埋まると壁のように見えて、かなり圧迫感がある。![]()
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少々調べても、メディアへの露出が極端に少ないグループだから実体は見えない。第一どんな曲に参加するのかが分らなかった。沖縄の若者グループだと聞いて、飛んだりはねたり踊ったりのイケイケどんどん系の楽曲に参加するのかナとか、そうだったらオヤジを呼ぶのはおかしいかとか、グルグルと色々な事をいい加減に思いつつも、対処法を考える間もなくリハーサルスタジオにテナーを下げて向かったのが12月5日。先ず、プロデューサから参加楽曲(バラード)の音を聞かせて頂いたのが、仲宗根泉さんの「Fortune」
この一曲だけに参加して、大人の雰囲気を出して頂きたいとの事。かなり説得力のある歌に驚きつつ、今時のソウル風味の歌とは違う個性も聞こえる事、ほとんど独学に近いらしいピアノにも味わいがある事に感心しきり。
待つ事暫し、やっとスタジオの中に入り、メンバー、スタッフの方の紹介を受けてから、さあ演奏。何となく始まった楽曲に参加していく。まあ、簡単に言えばテストのようなもの。おっちゃんの演奏が気に入ってもらえるかどうかはまったく分らない。聴かせてもらった音源のサックスは忘れて自分なりに対応するしかなく、その時点で「違う」と言われれば「あ、お呼びでない?」と帰るしかないのだ。
ま、何とかなりそうだ的展開になって、その日は3回ほどやって終わり。ソロスペースがあるわけでなく、イントロとエンディングはピアノに絡み、曲中は歌に絡む。歌メロを覚えるべく帰宅してから採譜。3日後、もう一度スタジオで何度かリハーサル。泉さんからの注文もいくつか出て、「では、武道館で」という事でリハ終了。
全国ツアーをこなしてきた彼等の初の武道館ワンマンライブ当日。
オジサンの責任は結構重い。オープニングから5曲ほどが過ぎ、面白い小芝居があって、舞台は暗転する。スクリーンに映された映像とナレーションが聞こえる中、舞台上手前方にスタンバイする。
写真は照明リハーサル時のものだが、本番では客の手に持つライトが光り、かなりきらびやかに見える。そこでバラードだ。はずせない。はずせばお濠に身を投げるしかない、ッてなプレッシャーと闘いながら広い控室で出番を待つ。
隣の控室は「東海林のり子様」と書いてあって、どこかで聞いた名前だな、と思っていたら、あのレポーターの方。何と開場と共に客席の若者にインタビュー。その画像が大きなスクリーンに映し出され、観客は退屈する事なく本ベルを待つ段取り。
ステージの様子は控室のモニターで見る事も出来たが、幕が開いた瞬間の「ウォーッ」という歓声は建物を揺るがす地鳴りのように聞こえてきた。
ステージ脇にスタンバイして、さて出番。サックスのベルにマイクを取りつけ、暗いステージの上へヨタヨタと出て行く。バンドのメンバーの誰よりも前に立つわけだから、かなり緊張する。
泉さんのピアノのイントロが響いた瞬間にスポットが当たり、緊張は頂点に達し、一瞬ワナワナとなった足をなだめるようにフーッと息を吹き込むと、「はいはい」とサックスが鳴ってくれてホッとする。ま、何年やっていようと関係なく、ステージは緊張するものなのだ。ましてや、一曲だけであれば尚更のこと。で、5分あまりで出番は終わり。
終演後、メンバー全員が控室まで来てくれて、「お疲れさま」とおっちゃんを労い、喜んでくれたのを見てホッと一息。


11 12月19日大坂城ホール
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武道館は9000名、大坂城ホールでは11000名の動員だったそうだ。客席はなだらかで、武道館ほどの圧迫感はない。ここに来るのは97年のスティービー・ワンダー以来。
開場3時間も前から広場は若い人達で賑わっていた。いや、若い。中高生中心とも聞いていたが、おっちゃんの目には、なにしろ若いとしか認識できない。たぶん、それは若い人達が大人を見て、オジサン、おばさんで分類するのと一緒かと思われる。いくつかのグループは子供にしか見えないナと思ったのだ。で、その楽しそうな様子がうらやましくもあった。

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本番のステージの様子は撮影できないのでリハーサルの、照明のチェック時に何枚か撮った。まるで花火大会のような美しい照明をお楽しみいただけるかと。




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5人は高校の同級生だという。終演後の食事会で少し話をしたメンバーによると、ギター、ドラム、ボーカルのバンドが先ずあって、そこにベースとキーボードが合流。 HYとは彼等が今も住む東屋慶名(ひがしやけな)のことで、沖縄を離れる意思はまったくなく、沖縄を拠点に今後も活動を続けるという。みんなで曲を作って歌う。同級生が集まってこのクォリティはほとんど奇跡的な事ではないかと思える。
武道館でも大坂城ホールでも、アンコールの曲で彼等はホール中央に作られた円形の別ステージでPA無しの歌を聴かせた。
まったく小憎らしいほどの演出だったが、それもストリートから出発した彼等ならではの自信溢れるパフォーマンスで、客席がそれに付いて大合唱になる様は感動的だった。
決定的なのは彼等がインディーズレーベルからの発信者である事。メジャー契約をしないのは、本当に好きな事だけを誰にも邪魔される事なく続けて行きたいという考えあっての事だと聞いた。
メジャーだけが全てではなくなっているとは聞くが、彼等はそれを証明し、新しいあり方を示しているとも言える。受け取る若者たちも敏感に察知して、支持し従うわけだ。HYの存在は若者たちがインディーズに興味を持つきっかけにもなっているそうだ。いつの時代も、若者は大人に押し付けられるものではなく、自分達で選んだものを支持するのではないかと思えるし、それこそが、その世代の主張なのかも知れない。
縁あって、35年の歳の差のあるサックス吹きが同じステージで音を出した。
ステージの緊張はさて置き、それは素晴らしい体験だった。メンバーの一人は私の歳を聞いて「えっ、家の、、」と語尾を濁した。彼等のどの親よりもたぶん年上だろうと思う。
彼等が私の歳になる頃、私は92才。たぶんこの世にいないだろう。そんな事を考えると、とても不思議な気がしたのだ。大阪在住の同級生に「しげ、それは、お前、孫やんケ」と言われた。そもそも年配のサックス奏者をとのオーダーだから、そろそろ髪を染めようと思っていたのも止めて白髪頭のまま参加。
打ち上げの席で、泉さんがデジカメで撮った私の写真を見て「うん、しっぶいなあ」と言うので、見ると髪がかなり白い。「ああ、真っ白じゃん」と言うと、「ばかねえ」と諌められおっちゃんの立場も形なし。
髪を染めて若返ったつもりってのが、ばればれで格好悪いことこの上ない、ってなことらしい。
げろげろ・・。
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事務所の承諾を得て掲載しています。転載厳禁![]()
左から 名嘉 俊(Dr. Rap. Cho) 新里 英之(Vo. Rap. Cho) 仲宗根 泉(Vo. Key)
おっちゃん(sax) 許田 信介(B) 宮里 悠平(G. cho)各氏敬称略
06.12/30
ここからがFootprintsで掲載した記事
11 2006年 12月12日武道館 HY



ロックバンド「HY」との武道館での共演の詳細は、上に書いた通り。
彼らはこの後にアメリカでのライブも行ったし、年末恒例の何とか歌合戦にも出演して認知度はいくぶん高まった。
しかしながら、その数年前から武道館を一杯に出来るグループだったのだ。数年後に、彼らの楽曲のホーンセクション・ダビングに参加して久々の再会を果たしたが、それ以来会う機会はない。

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客席を見るとそびえ立つ人の壁に見える武道館のステージ、だだっ広い控室で一人用意されたハンバーグなどを食べていた時間、アンコールでPAなしで演奏した彼らを「やるなあ」と感心したこと、今や懐かしい思い出というより、日々その輪郭はおぼろになりつつあるのだけど、貴重な経験だったことは間違いない。
この後の大阪でのステージがビデオ化されたらしいが見ていない。行きつけの床屋のスタッフに彼らのファンがいて、ビデオも入手したらしく、店長なども見たらしい。で。そこの床屋ではちょっとだけ有名になった。
武道館での写真が上のものだが、実はこの撮影にはもう1枚あった。もう一枚撮ることになって、撮る前にイーズ(ボーカルの仲宗根 泉さんのこと)が、何だか分からないが、しきりに「さん、にー、いちとカウントダウンして撮って」と言っていた。で、撮れたものが下のものだが、撮られた瞬間は何が起きたか分かっていないのだ。ま、かなわない。
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2014 10/21