黒猫が去って、ねことの暮らしが懐かしく、どこかにいい猫はいないかと探す羽目に陥りました。里親を探しているねこの情報も入ってきて、何匹かのねこの写真も見ましたが、このねこだと思うものには中々出会えぬままに春になり、桜も咲き始めました。そんな日に天から舞い降りたように突然現れたのがパスタでした。

Pastaは捨て猫(雌猫)でした。まだ、目も閉じたままで生後1週間以内だったようです。何匹もねこを飼っている文房具屋のねこ好きおばさんの店の前に、3匹の仔猫が入った箱が捨てられていました。その中の1匹がパスタでした。ちょうどこの年の初めにねこと一週間近く一緒に暮らしてからというもの、ねこを飼いたいと思っていた矢先でもあり、仔猫たちの出現は大袈裟でなく天啓だと思えたのです。私は上着のポケットの中に潜ませて、持ち帰りました。
人の赤ん坊と同じく、ねこも何時間置きにかミルクを欲しがることも知りました。大変でした。ねこ用の哺乳瓶(ドン・キホーテで売られていた!!)を用意し、ねこ用の粉末ミルクを溶かし、それを水で冷まして何度も何度も与え続けました。大変でした。

目が開きかけの頃は、ゴマのような瞳。
寝ている姿はまるで綿ボコリ
ニャアニャアといつも鳴いていたのですが、目が見えるようになって少し静かになりました。
この頃、朝方によく叩き起こされましたから、いつも寝不足でした
あちこちの物をひっくり返したりした揚げ句、この段ボール箱がお気に入りに。猫が高い場所を好むようで、この場所からだと部屋の隅々まで目が届くし、とうちゃんがどこにいるかすぐに分かるってことらしいのです。

この横着な態度
仕事の邪魔をするのでもなかったのですが、鍵盤に向かっている時は必ず鍵盤楽器の空いたところに座りたがりました。監視されているような気分になることもしばしば。監視場所としてキーボード2段目のJV-80と3段目の T-3にタオルを敷いて提供するかわり、最下段のマスターには立ち入らないという事で双方合意。タオルで覆われたJV-80と T-3 は、音色のチェンジをするのも大変に。
何か作業をは始めると、気になって仕方ないらしく、かならず覗き込みに現れ。飽きるとキーボードの上で寝て、作業の中断を要求。
もちろん、逆らうわけもなく即了解という展開に。
「分かってんじゃない。それでいいんだよ」

1年後の3月不妊手術後の痛々しい姿、この後当然のように着せられた服状のものはボロボロになりました。
同居初年度の小さいころは、寝返りで押しつぶす可能性だってあるし、ベッドで一緒に寝るなどということは出来ませんでした。ベッドの下に置いたケージの中で休むように躾け、4月のまだ寒い夜には、暖をとるため、スチール製のペットボトルに熱湯を入れ、タオルでグルグル巻きにしたものをケージの中に入れました。小さいパスタはそれに跨がり、しがみつくようにして寝ました。
何ヶ月か経って、初めてベッドの上に立った日のこと。爪とぎ用に買ったボードをベッドに立て掛けると、恐る恐るパスタは上ってきました。視界が開けた先にあったのは、パスタにとっては広く感じる、シーツに包まれた新たな遊び場所だったに違いないのです。その時の目の輝きは人の反応と同じようなものでした。その驚いた表情を昨日のことのように思い出せます。主従というよりは同居する生きものとして、その生活に互いが日に日に馴染んでいきました。
駐車場は小さな道をはさんだ向いの住居の1階部分にあり、そのうち仕事から帰ってきた車の音を聞き分けるようになりました。楽器を車から降ろし、玄関の前に立つと、必ずドアの内側から「にゃあ、にゃあ」という声が聞こえました。それで、いつの間にか「ウチでねこが待っている」と自覚するようになったわけです。

哺乳瓶でミルクを与えるところから始まったパスタとの生活は初めてことばかりで戸惑うことも度々でしたが、すっかり慣れると、いつも私の後ろから付いてくるようになりました。窓際に行けば同じように窓際に来るし、台所に行けば自分も台所に用事でもあるかのように付いてきました。
ある日の深夜、明日はゴミ出しの日だと気付いて、表にある集積所まで行こうとした時も付いてきました。外に出る習慣はなかったのですが、深夜で人通りもないし、付いてくるままにしていると、突然騒がしい声が聞こえて5、6人の若者たちが入ってきました。2階の住人が友達を連れて帰ってきたのです。しまった、と思った時はすでに遅し。後からきていたパスタは慌てて部屋に戻ろうとしたようでしたが、玄関は閉まっています。咄嗟にパスタがとった行動は隠れることでした。夜の明けるころまで探しましたが出てきません。
すっかり気落ちしつつもその日はあきらめることにしました。昼前に起きて、方々を探しましたが手応えはなく、ねこに詳しい知人に聞くと、おそらく帰ってこないんじゃないかという悲観的な意見ばかり。一昼夜、気になって仕方なく、しかし探す手立てもありませんでした。ベッドで横になっても落ち着かず、せめて眠りにつくまではと、ドアのストッパーを出して少し隙間を空けたままにしていると、外からニャアと声が。すっ飛んで行ってみると、ドアの隙間から鼻先だけ見せたパスタ。ドアを開けるとニャアではなく、ウォーというような声を出して部屋に転がり込むように入ってきました。ねこはねこなりに帰宅したという安堵感でホッとしたように見えたものです。
庭先に来る大きな猫に追っかけられたこともありました。外敵を意識することのなかったパスタにとって外にいる大きな猫は危険なものであるはずもなく、フラフラと近寄って行きました。突然襲いかかってきたヤツに驚きコマネズミのように逃げる姿が見え、慌てて外に飛び出して名を何度も呼ぶと、網状のフェンスの内側で震える姿。網越しに少しずつ持ち上げて助け出しました。この後、パスタは外の猫に対する警戒心が強くなりました。